あとがき 

の本を書いていますと、雛人形の歴史を書いているというより、雛人形の人生を書いているような気がしてきました。
なぜなら、雛人形の歴史を振り返ってみると、人間の子供が母親の胎内で育つことから始まり、成人へと成長していく過程と、曲水の宴が雛人形になるまでの過程とが良く似ているような気がするからです。
雛人形の歴史を人生に置き換えますと次のようになります。
それは、二千三百年前、自然と人間の関係から生命が芽生えました。 
そして、それは、一千年前、流し雛として日本で誕生し、杯から簡素ではありますが、男女一対のわらや紙でできた人形となりました。 
そして、それは、曲水の宴でもそうでありましたが、流し雛でも、やはり水の流れの中で育てられました。 しかしながら、しばらくして、それは、立雛となり、家の中で育てられるようになりました。 
そして、それは、四百年前に、おひなまつりの行事となり座り雛となりました。
そして、それは、衣装も豪華になり、作りも凝ったものになり、お顔も、繊細な表情になり、立派な雛人形として現在も表情、衣装、スタイルを変えながら成長し続けています。
そして、それは、二千三百年の人生の中で多くの歴史上の人物と関わり出会いました。 秦の昭王からはじまり現在の我々に至るまで、これからもさまざまの人々と接しながらドラマを生み、成長し続けることでしょう。
私は、雛人形の歴史を調べながら驚き、感動することが多くありました。 その中でも一番感動したことは、雛人形の人生を通して断片的な歴史が一つに繋がって行くことでした。

                             二〇〇三年九月

                                   平安春峰